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雑学−お米の話し

米の業界新聞「商経アドバイス」様より抜粋

1.コメは栄養素の固まりであり、主成分のデンプンは体内で有効に活用されエネルギーの源となる
タンパク質、ビタミンの特性も高く、無機成分も豊富。胚芽にはビタミンEも含まれるが、これは玄米表層の下にあるヌカの部分に多く含まれている。栄養素が豊富な玄米をそのまま食べても硬い表皮が消化、吸収を妨げるので、コメの栄養素を効果的に摂取するには、分搗き米が一番適しているといえる。玄米を少し焦げる程度に煎り、適量の水と塩で煮て薄目の重湯を作り、玄米スープとして食べる方法がある。体力回復や糖尿病で、のどの乾きが激しい人に効果があるとされ、スープとして消耗性疾患、血行促進、体質改善に利用される例もある。コメの評価は通常、白米の食味で行われるが、栄養価を基準にすれば、食味は低下するが搗精を緩やかにする点で、糠層を残した分搗き米に軍配が上がる。分搗き米は保存性が劣るので、常に専門店で搗いてもらう必要がある。うまさを取るか栄養価を取るか、コメをどのような食品として位置づけるかによって受け止め方も異なってくる。

2.コメは優れた栄養素を持った固まりだから、主食だけにとどまらない
糠はビタミン豊富な漬け物やコメ油などに利用され、ワラも飼料や生産道具に活用される。コメの周りには納豆菌や麹菌など多くの微生物がいて、こうした有用菌によって優れた食文化を築いてきた。麹菌はカビの一種で、生の穀類には繁殖しないが、ご飯のように炭水化物を多く含んだ穀類や、茹でた大豆のようなタンパク質に富んだ食品によく繁殖する。麹カビは日本土着の菌で、ラテン語の学実名を和訳すると「コメのカビ」という意味になるという。麹カビはこうした穀物のデンプン、タンパク質、脂肪を分解し、うまみ、甘み、風味をつくるので、日本人は古くから麹を利用して優れた発酵食品を作ってきた。味噌、醤油、酢、漬け物のうまさは、この麹の持つ力によるものだ。そして日本酒も日本人が独自の方法で麹菌や酵母を使い、コメを発酵させて造った。日本酒の成分は、ワインの400種に対し700種といわれ、日本酒には多くの味わいが隠されている。麹は日本人の食生活に深く根を下ろしている伝統的発酵食品の基本で、コメ、豆、魚などの発酵の利用して保存性を高め栄養価も上げてきた。麹のすばらしい効用は食品だけでなく美肌効果もあり、結核菌や大腸菌、サルモネラ菌などの悪玉菌をやっつけることが発見されている。さらに麹の酵素からタカジアスターゼという消化剤が作られ、胃腸薬や整腸剤に利用されている。近年は麹菌によるがん抑制作用も研究されていることから、麹菌の伝統的な日本の食文化を見直したい。そして漬け物などはぜひ手作りして、乳酸菌、麹菌の恩恵を最大限、受けたいものだ。

3.アミロースは身体の“掃除役”ご飯は現代人にピッタリ
コメの主成分は炭水化物(デンプン)であり、玄米には73%、白米には76%含まれている。そしてタンパク質が6〜11%、脂肪が3%。このほかリン、カリュウム、マグネシュウム等の無機質、ビタミンB1・B2、ナイアシン等のビタミンと水分で構成されている。主成分のデンプンは、アミロースとアミロペクチンからなり、うるち米は15〜35%のアミロースと65〜85%のアミロペクチンから構成される。もち米は、ほとんどがアミロペクチンからなっている。このほかアミロースが10%前後という半もち米の品種もある。コメの味は、アミロースとタンバク含量の低い方が良いとされている。アミロース含量は品種特性が強く、タンパク含量は低・高温障害による登塾不良や施肥による影響が強い。日本の品種ではアミロース15〜23%、タクパクは5.5〜8.5%程度といわれている。もち米の主成分てあるアミノペクチンは、非常に消化・吸収が良く、高カロリーとなって食後に血糖値が上がるため、糖尿病の人は食べ過ぎに注意が必要。一方のアミロースには、最近の研究で食物繊維と同じく消化に抵抗性を示す性質があることが分かっている。パンのように粉にして加工したものは当然、消化・吸収が良くなるが、ご飯は粒をそのまま炊いて食べているため腹持ちが良く、適度のアミロースが身体の“掃除役”になる。栄養過剰の現代社会にはピッタリの食品だ。今なお、ごはんを食べると太ると思い、あえてパンを食べる人も多いようだが、パンには乳化剤など添加物も多い。美容と健康のためにも米飯食を推進したい。

4.良質なタンパク質を多く含む7分搗きが摂取に効果
玄米には豊富な栄養素が含まれているが、最も外側にある皮質部と胚(芽)には繊維が多く、消化液をじゃまするほか、この繊維が腸を刺激して早く排出されてしまうため、消化時間が短くなって結果的に消化が悪くなる。このため100%白米としないで70%程度に精米した7分搗きにすると消化が良くなり、コメの有効成分を効果的に摂取することができる。コメを白米にした場合の成分は、おおむねデンプン79%、タンパク質6.2%、脂肪0.8%、ほかミネラル、ビタミン類となるが、白米ではビタミンとミネラルが大幅に減少するため、野菜やカルシュウムを同時に獲る必要がある。とくに大豆との相性が良く、ご飯とみそ汁は理にかなった組み合わせで、大豆を同時に摂ることによってコメに少ないアミノ酸のリジンなどを補うことができる。コメのタンパクは、小麦に比べて質が非常に高く、穀類の中では最も高い栄養価値を持つことが示されている。その栄養価は卵の100に対して70で、小麦は48にすぎない。タンパク質は酵素により完全にアミノ酸に分解され、細胞などの合成材料となり、残りは参加燃焼されるエネルギー源となる。タンパク質というと、肉や豆腐などを連想しがちだが、あまり知られていないコメの一面だ。また白米になると、ミネラルとカルシュウムが不足するので野菜や小魚、牛乳、チーズなどで補う必要がある。しかし現代の食生活でこの副食が不足することはないため、現代において米食は理想的な姿といえよう。

5.バランス良い必要栄養素の中心食材
人間の身体は「科学技術ではとても作れない精密化学工場」といわれる。食べた食物は胃で酵素などの助けを借りて分解・吸収され、肝臓をはじめとする体内の各所に送られる。それぞれ熱源やタンパク合成などに必要な栄養素として活用され、体内に蓄積されるほか、不要なものや使い終わったカスは身体が順調に働いている限り、きれいに体外に出されるようになっている。人間の身体には生活してゆく上での栄養基準量があるが、それを薬のように純粋な形で摂ることは不可能だ。一つの食品ですべて必要な要素を理想通りに含んだ完全食品はなく、そのためさまざまな食物を食べることによって必要な栄養素を摂取する必要がある。このため食物の組み合わせによっては栄養の偏り、過食という問題も起こることになる。コメはかって、外国からの小麦を売らんがための悪いうわさが流されたりしたが、これはコメ自体が悪いわけではなく、食品の組み合わせなど食べる人たちの考え違いが原因だ。コメは日本人の身体に合った優秀な食品であり、必要な栄養素をいろいろな食物からバランス良く摂る上で中心になる食材といえる。食生活のバランスこそが健康を維持するために重要で、パンでも肉でもそれだけ食べ続ければ体調不良になるのは明白の理。日本人が白米のご飯を食べるようになったのは江戸時代であり、何千年もの米食の歴史からみると比較的新しいといえる。当然そのころは栄養学は発達していなかったから、「江戸愚い」呼ばれたかっけを流行させた。これもコメが悪いのではなく、偏った食生活に原因があるのは言うまでもない。栄養過多の現在にあっては、むしろ米飯の量を増やした方が身体によいだろう。

6.炊飯前の十分な浸漬で粘性多糖類などを生成
コメの味は大変淡泊で無味に近い。しかも淡い味だからこそ、味の濃いおかずに良く合う。そして、淡泊が故に毎日食べても飽きがこない。コメのうまみは、炊飯によってタンパクが分解され遊離アミノ酸が増えるとともに、コメに存在する天然のアミラーゼがデンプンを分解し糖が生成され、こうしたうまみ成分が統合してもたされる。遊離アミノ酸はさらに甘味系のアラニン、グリシン、スレオニン、苦味系のアルギニン、ロイシン、酸味うまみ系のアスパラギン酸、グルタミン酸、そして近年注目されているギャバなどに分けられる。これがほかの成分と微妙に結びついてコメのうまみが形成される。そしてコメの表層にはこうしたアミノ酸に加え、うまみ物質のしょ糖が多く含まれている。焚く前に行う浸水の段階で上質の甘味をもつオリゴ糖や粘性多糖類が生成されるために、十分浸水することで食味の向上が図れる。さら浸漬中には、血流を良くし中性脂肪を抑え、痴ほう予防効果があるといわれるギャバも形成される。美味しいご飯を堪能するためでなく、栄養効果を高めるためにもコメの浸水時間が必要になる。近年は15分で炊ける炊飯器も登場しているが、美味しいご飯を食べるには、人間の都合ではなくコメの生理・特性に合わせた炊飯が必要だ。また、コメは甘味のあるものが評価されるが、明確に甘味のあるコメというのはそうあるものではない。そして時に出会う妙に甘味のあるコメには、モソモソとご飯の物理特性が悪くとも甘味だけは強く感じられるコメも含まれる。だから、コメの甘味とは、天候によって肥効が促された結果ではないかと考えられる。土づくりとその年の天候がコメの味を決めるといえそうだ。

7.食欲をそそるご飯の香りは鮮度のあかし
コメの香りは無臭に近く、その香りの特徴を的確に表現するのは難しい。確かに新米には、食欲をそそるご飯の香りが漂う。古米を食べた時は、古米臭はなくとも何か粉っぽいひねた香りがするから、古米を食べた時にあらためて新米の良さを感じる人は多いと思う。食べ物の香りは本来が微量で、コメはさらに少ない。コメに含まれる香気成分はアルコール、アルデヒド、ケトン、酸など100種類の揮発性成分が複合したもので、この成分はコメの表層と中心では異なっており、米粒外層部に多い揮発成分が、ご飯特有の香りを出すもとなっている。そして、ご飯の香りの成分は、コメ糠にもかなり共通して含まれていることが分かっており、ご飯の香りの一部はコメ糠からも来ていると考えられる。通常、糠臭を防ぐために洗米を行うが、コメの香りは糠を含む外装に含まれているから、米質、登塾度におおじた搗精と洗米は大変重要な行程といえる。ある研究では、通常の歩留まりの91%に搗いたコメを数回研いてご飯を炊くと、ご飯には淡い味と香りがあるが、10回以上研いだり、80%近くまで搗きこんだコメを炊くと、味も香りもなくなってしまうと報告している。ご飯の味や香りは、微量の糠成分が関係しているといえる。コメの香り成分は時とともに変化し、リノール酸などの不飽和脂肪酸が分解して香り成分も増えてくる。しかし、これは酸化によってケトンやアルデヒドなどが増え、ヘキサナールやペンタナールといったカルボニル化合物が増加するためで、やがて新米の香りは消え古米特有の鼻を突く臭いがするようになる。つまり、新米の香りに代表されるご飯の臭いは鮮度のあかしといえる。

8.複数の要因絡む食味、実食の積み重ね大切
米の食味は香り、甘さ、粘りや硬・軟、粒の大・小、そして炊き方などが微妙に絡み合うが、コメの持つ成分も評価を左右している。コメの成分は15%、糖質・繊維74%、タンパク・チッ素化合物7%、脂質2%、灰分約1%に大別される。水分は16%位の方が食味は良いが、保管は14.5℃以下の方が良いとされる。糖質・繊維はアミロースが多いと水分が多く必要としパサパサするが、アミロペクチンが多いと粘り、オリゴ糖類が多いと甘味が増す。 タンパク質は、タンパク質中で20%程度(品質によっては5%まで差がある。)しか占めないプロラミンが食味を低下させるほか、アミド、アンモニアなどのチッ素化合物が多いと食味が落ちる。一方、グルタミン酸などの遊離アミノ酸(コメのタンパク質構成にあずからないタンパク質)が多いと食味を良くする。脂質、灰分含量は非常に少ないが、糠層に多く含まれる脂質が貯蔵中に酸化すると古米臭の原因となる。灰分はリン、カリウム、マグネシユウムに大別され、登塾温度が適正に高まるとリンが多くなりマグネシュウムも増える。このマグネシュウムが多くなると歯応えや甘味が増して食味が向上するが、カリウムが増えると食味が低下する。登塾気温が低かったり、逆に高すぎたりするとカリウムが多くなる。また、マグネシュウムとカリウム含量は相関関係にあるため、カリウムよりマグネシュウム比率の高いコメの方が食味は良い。このように、コメの成分が食味に与える影響には多くの要素が絡んでいる。コメは毎年、登塾度が異なるから食味評価も毎年違っても当然ともいえる。実食の積み重ねがなによりも重要だ。

9.洗米は日本の食文化の原点
世界のコメはインデカ米の食文化中心だが、日本ではジャポニカ米という名が表すように、短粒種のしかも炊飯と言う独特の食分化を形成している。そして日本では、ゴミを除いたり糠臭を防ぎ、ジャポニカ米の淡い香りと味を引き立たせるために洗米する。しかし世界ではコメを煮たり、蒸したり、炒めたりして食べるので洗米をしないのが普通だ。したがって洗米は、日本固有のものいえる。日本では、コメを洗うことを研ぐという。水中精米を行うと、ごはんの味が良くなることを、生活の中から自然と身につけ、洗米は日本人全てが行う伝統の食文化といえる。近年、この文化も食の簡便化によって研ぎ器や電気ブラシによる無水米研ぎ器、各種の無洗米が登場して、洗米を省く風潮がある。洗米は、ジャポニカ米を食べる上で脈々と受け継がれてきた伝統・文化だ。今後、無洗米が定着し日本人が洗米をやめてしまったら、日本人の嗜好(しこう)も変化し、コメはジャポニカ米からインデカ米に変わってしまうかもしれない。洗米は面倒、栄養が逃げる、水が冷たい、手が荒れる、環境に負荷がある―など、無洗米の普及が進められている。それも一つの選択肢だが、洗米にはただ洗うという行為だけではない多くの意味と文化が隠されている。食の源流であることを忘れてはならないだろう。

10.洗米後の濁りはうま味のあかし
玄米の一番外側の果皮は、表皮・中果皮・横細胞層・管細胞層そして種皮に続く。この果皮部分が、コメ糠の35〜40%を占める。種皮の下には糊粉層・亜糊粉層と続き、この部分が米糠では60〜65%になる。これがコメ糠の内容で、これより内側はデンプン貯蔵組織だ。種皮の下にある湖粉層は、デンプン組織と一体化して胚乳を形成している。湖粉層はたいへん軟らかいため、搗精によって種皮から湖粉層まで除去され、残った亜湖粉層とデンプン組織が白米となる。コメ糠にはたいへん有効な成分が含まれるが、白米表層の胚乳部分の湖粉層には、フィチン酸や各種のミネラル成分が豊富に含まれる。最終的に白米表層となる亜湖粉層には、コメの食味をよくするマグネシュウムなどのミネラル成分が特に多い。白米表層には、さらにうまみの素となるしょ糖や粘性多糖種が多く、グルタミン酸などのアミノ酸も多く含まれている。このため、湖粉層を削りすぎると白度は上昇するが、貴重なうまみ成分もはぎ取ってしまうことになる。従って搗精は、食味との兼ね合いからせいぜい90%くらいまでとどめるのが無難といえる。白米表層にはうまみが凝縮されているから、搗精度が低いほどコメを研ぐ必要があり、搗精度の進んだ、世に言う無洗米は研がない方がよいことになる。無洗米は昔から濁度を良否の基準にするが、コメのうまみは亜子粉層にも多く含まれている。この層は軟弱ではがれやすいから、むしろ濁らない無洗米はうまみも減らしてしまっている恐れがある。通常の洗米でも淡い濁りは旨みの証しだから、初回の濃い濁りを捨てれば、残りの濁りはむしろ残した方がよいといえる。

11.コメはスーパー食品!有用成分含むコメ糠
コメ糠は価格が安い上、洗米によって出る糠も評判が悪くなるまで産業廃棄物のような扱いを受けている。しかし、最近の研究でコメ糠には、免疫力を高めがんを防ぐ驚異の抗酸化成分が含まれていることが判明。食品だけでなく、工業製品にも有用な無限の資源だと見直され始めている。この有効成分はフィチン酸と呼ばれ、小麦、大麦、トウモロコシ、大豆、落花生などにも含まれているが、コメ糠にはとくに多く含まれており、むかしから抗酸化作用が知られていた。しかし、フィチン酸はミネラル成分と結合しやすいため、ミネラル吸収を妨げる物質とする見方が多かった。しかし最近の研究では、吸収阻害はそれほど問題ではなく、それよりもフィチン酸(IP-6とも呼ばれる)の強力な抗酸力が抗がん作用を発揮し、血中コレステロールや中性脂肪を低下させて血液をサラサラにし、結石の予防効果もあることが分かってきた。コメ糠にはさらに細胞活性化に不可欠なイノシトールや、ポリフェノール類の一種で抗酸化成分でもあるフェルラ酸が含まれ、これも抗酸化作用や成長促進、性腺刺激作用などさまざまな効果がある。加えてΥ―オリザノールやビタミンEでもあるトコトリエールなどが豊富に含まれている。微量のコメ糠成分は食味も向上させるため、コメ糠をじゃま扱いしないで、“コメは捨てるところのないスーパー食品”として見直し、コメのイメージアップにつなげたい。

12.食味の良しあしも炊飯の腕次第
コメを美味しく食べるには、上手なアルファ化が欠かせない。炊飯器も進化し、米質におおじた炊き分けが出来るものもあるが、米質を判断するのは人間だから、食べる人の試行錯誤こそが、美味しいごはんを食べるための極意になる。炊飯前のコメの水分は15%程度にすぎない。炊飯すると、水分は65%位まで上昇する。だからご飯は半分以上が水分になり、このアルファ化に必要な水分を確保することが重要だ。このため、美味しいご飯を食べるには、二時間くらい浸漬することが秘訣になる。コメは加熱されることによって急速に水分を吸収し糊化が始まる。糊化が進んでいくと、コメの中からデンプンが溶け出し始め、米粒の表に付着して層を形成するとともに、米粒から離れて炊飯液を作る。そして、コメから放出された炊飯液は、加熱が最終段階にはいっていくと、濃縮されてコメの表面に繰り返しコーティングされてご飯の表層を形づくっていく。この糊化液層が厚く、滑らかにコーティングされたコメほど、ご飯にツヤが出て美味しいとされる。また、水が少ないと糊化液が減少して十分な湖化層ができないため、ご飯は硬くなる。逆に水が多すぎても糊化液がコメに取り込まれずベチャついたご飯になる。コメの糊化状態は米質の硬・軟により大きく変わる。そして、白米は米質変化が大きいから、常に米質を判断し、洗い方、水加減を調整し、炊き方を判断する最後の腕が重要になる。

13.白米表層の傷など形態も炊飯には重要な要素
たとえ同じコメでも、実際に炊飯してみると、一合より三合炊いた方が美味しい。また、3合釜で3合目いっぱい炊くより、5合釜で3合炊いた方が美味しい。こうした炊飯による食味変化の妙は炊飯によってご飯の内に形成される空洞の良しあしが関係しているに違いない。炊飯は、理屈ではデンプンがアルファ化される事だが、いわゆる“ふっくら”と炊くには多くの炊飯技術、ノウハウが必要だ。むかしの主婦は試行錯誤と経験を積み重ね、この炊飯技術を身につけてきたといえる。近年では電気炊飯器に加圧型や、105度炊きなどが登場、15分の早炊きが出来る商品もある。しかしこうした炊飯方法は「ご飯の生理」を無視した炊き方で、食べられても、ご飯のもつ食味を100%引き出しているかは疑わしい。圧力釜では早く炊けるが、圧力が強すぎればふっくらとは炊けない。加熱によって生じる釜の中のコメの対流とその変化は、おいしいご飯を炊く為の重要な要素になるから、米質に応じた水量と加熱方法が大切になってくる。そしてコメは白米表面の搗精状況によって水の扱い方が異なり、表面にある程度の微細な傷、損傷がある方がデンプンの糊化が良くなりふっくらと炊きあがる。だから本来の米質とともに、白米表層の把握も必要だ。白米表層の微細な傷は、コメの吸水率にも関係してくる。「無洗米の炊飯が難しい」といわれるのは、容積率とともにこの白米表層の状況が、通常の精米とは異なるのが原因と考えられる。したがって炊飯は米質と共に、白米表層の加工形態にも注意する必要がある。

14.コメのアルファ化促す浸漬時間は十分確保を
ご飯を炊く際の洗米と浸漬時間の有無は、食味を向上させる上で大きな意味を持っている。水でコメを洗う行為は付着したヌカやゴミを除去するだけでなく、雑菌を洗い流す上では最も有効な手段だ。さらに、水で洗うことによって生ずるコメ表層の凸凹が水の浸透を促し、デンプンのおねばが表層に付着するのを促進してご飯をふっくら炊きあげるのに役立っている。浸漬はご飯をおいしく炊くためには不可欠の工程だが、いまだにホームページの炊飯手法を説明したぺージなどでもその多くが「夏は30分、冬は1時間浸漬しましょう」とうたっている。食の簡便化・短縮化が進んだ近代において、米穀店では最低限度の浸漬時間という意味で表記しているようだ。しかしこの表現では、この時間だけ浸漬すれば十分だと消費者は理解するだろう。浸漬はコメのアルファ化に不可欠の作業であり、浸漬によってアミノ酸が増えうまみと栄養素が増加する重要性を説明し、夏でも最低1時間、欲をいえば2時間の浸漬を確保すへきと訴えるべきだ。また、一部に浸漬のしすぎは食味に悪影響を与えるという認識があるが、14時間の浸漬でも食味を落とすことはない。長時間の浸漬では、釜によっては炊き上がったときに、釜の底にネバッとしたおりのようなものが残りやすい場合もある。これを食べてもとくに問題にはならないが、浸漬が12時間以上に及ぶ場合は良くすすいだ方が無難だ。栄養価を高めるためにも浸漬は、朝食の場合、前日の夜にセットしておく仕込みのスタイルが理想といえよう。

15.搗精起源は仁徳天皇頃元禄時代に白米食普及
搗精の歴史は古く、公には西暦452年、仁徳天皇の15年頃に春米部を置いて搗精が始まったと伝えられる。730年頃に年貢米は精米で納米したという記述があり、当時、搗精米は春白米といった。精米といつても臼、杵しかないから、現代の半搗き米程度で、搗き込んでもせいぜい7分搗きだったと思われる。名称も春白米だから、当時としては相当おいしかっただろうと推測できる。当時はコメは貴重だったから、7分搗きなどは超高級品で、精米といっても実状は粗精玄米で麦、アワ、ヒエなどに混ぜて粥などにして食べられていた。白米食が増えたのは、それから約1,000年たつた江戸時代の最盛期、花の元禄時代で、流行は江戸から各地に伝藩し、同時に脚気も広がった。そのため脚気は、江戸の病気「江戸患い」と呼ばれた。白米食が流行したのは、表層にある硬い繊維質の表皮を除くとおいしかったためだ。コメは本来無味だが、淡泊な味が故にたくあん、漬物など素朴な食材にも良くあった。白米があまりにもおいしかったので、ご飯だけを食べ過ぎて栄養が片寄り脚気が増えた原因とされる。当時は、いまのような高性能精米機はなかったから、白米といっても糠にまみれたコメだった。そして白米を水で研ぐと、さらにうまみが増す事を覚えたため、糠に含まれる貴重な栄養素がなくなった。それでも現代の白米にくらべたら、搗精度が少ない分、たいへん栄養豊富なコメだったと推測できる。

16.隠れ良食味米”産地と“優良”産地の違い
コメは外観、香り、味、粘り、硬さなどで評価され、外観が良く粘りがあって香りや甘みがあるのがうまいとされる。しかしコメは、本来が無味無臭に近い。かぐわしい新米の香りといっても、その香りは微々たるもので、甘みの有るコメというのも実際には少ないものだ。 もっとも、うまいコメには総じて粘りがある。粘りはジャポニカ米の大きな特徴で、うまさの基準とも言える。そしてその粘りは、コシヒカリであっても地域によって粘りがちがう。例えば北陸と関東産では北陸産のほうが軟らかく、魚沼に代表されるその粘りには、滑らかと言うか独特のものがある。しかし、こうした違いには‘概して’とか‘全般的に’という但し書きがつく、コメは同じ品種であっても、地域が違えば登塾度も異なり食味も微妙に変わるから、すべての魚沼産や北陸産が独特の粘りを示すわけではない。また全国のコメを食べ比べてみると、各県には必ず食味が優れている場所がある。こうした全国の隠れ良食味米は、そのうまさと少量が故に他県に出ることもなく、地元で消費されてしまう。たとえば埼玉コシヒカリは、生育と気候がドンピシャリと当たれば、食味は関東でもトップクラスを示す。まさに関東の隠れ銘柄米といえる存在になる。 対して、優良産地のコメは、ある程度のレベルで安定的に生産されるから、他県にも出荷され、産地銘柄が知れわたる。コメの味と銘柄には、こうした現実と裏事情がかくされている。コメの味は産地銘柄だけで語れない。飽食の時代では質の開設が重要になる。これからのコメは粘り、硬さ、味の度合いなど、うまさをアピールすることが大切になる。




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